専門医療について

1.バスキュラーアクセスの作成 

①バスキュラーアクセスとは

 バスキュラーアクセスとは血液透析を行う際の患者側のアクセスルート、つまり血液を人体から脱血したり返血したりするための人体側の出入り口のことである。以前は“シャント”と言っていたものであるが、シャントとは短絡を意味し、動静脈短絡を指す言葉であったことから、近年では動脈表在化、カフ型カテーテルなどの短絡を伴わないアクセスルートも含めて“バスキュラーアクセス”という言い方で統一されるようになった。 2008年の調査では、本邦の透析患者のバスキュラーアクセスの割合は、自己血管内シャント89.7%、人工血管内シャント7.1%、動脈表在化1.8%、カフ型カテーテル0.5%、非カフ型カテーテル0.5%、シングルニードル透析(0.2%)、その他0.2%となっている。近年では透析患者の高齢化や血管荒廃症例の増加から自己血管内シャントの割合が低下し、人工血管内シャントの割合が増加している。

②バスキュラーアクセスの種類

 バスキュラーアクセスは大きく2つに分類される。つまり動静脈短絡と伴うものと伴わないものである。動脈と静脈を短絡させると、動脈内の高圧の血液が低圧の静脈内へ流入するため、そのルートの血流量、血流速度は増加し、そのルートから脱返血を行うことができる。このうち、動脈と静脈を直接短絡させるものが、自己血管内シャントであり、透析のバスキュラーアクセスとしては最も理想的である。また、動脈と静脈を人工血管で短絡させる方法が人工血管内シャントである。
次に、短絡を伴わない方法として代表的なものが動脈表在化とカテーテルである。動脈表在化は通常上腕動脈を皮下に挙上させ、直接その挙上させた動脈を穿刺し脱血する方法であり、カテーテルは頚部もしくは鼠径部の静脈へカテーテルを挿入し脱返血を行う方法である。このカテーテルにも長期間留置できるカフ型カテーテルと一時的な使用を想定している非カフ型カテーテルに大別される。
他の方法として、動脈を直接穿刺する方法や頚部や大腿部の静脈を透析毎に穿刺する方法などがある。

1)自己血管内シャント

 自己の動脈と静脈を直接短絡させる方法であり、人工物を使用せず、開存成績も良好であることから最も理想的なバスキュラーアクセスと考えられている。通常、利き腕と反対側の前腕の動脈と静脈を吻合し、前腕もしくは上腕の皮静脈へ穿刺し透析ができるようにする。バスキュラーアクセスとしてはこの方法が第一選択となるが、心機能が低下している場合、穿刺可能な自己血管がない場合、血管が深く穿刺困難が想定される場合は適応外とされている。

2)人工血管内シャント

 自己血管が荒廃し、自己血管内シャントが作成困難であるが、心機能は保たれている場合に選択させる。利点として、表在静脈が荒廃していても深いところの静脈が開存していれば作成可能、穿刺が容易、術後早期に使用可能(種類によっては術直後より穿刺可能)などである。一方欠点として、人工物を使用するため感染のリスクがある、開存成績が自己血管内シャントと比較し悪い、シャント血流量が多く心負荷となる可能性があるなどが考えられる。

3)動脈表在化

 返血路としての表在静脈が確保できる側の上腕動脈を筋肉の間の深いところから皮下の浅い層へ挙上させ、直接体表から動脈を穿刺し易くする方法である。この方法は動脈心機能が低下し、動静脈の短絡を行うと心負荷が増大し心不全となる可能性が考えられる症例に対し行われることが多い。利点として、動静脈短絡がないため循環動態へ影響を与えないことがあげられるが、欠点として動脈への穿刺を行うため止血に十分な配慮が必要なこと、長期間の使用にて動脈瘤を形成することがあることなどが考えられる。

4)カテーテル

 カテーテルは前述したように長期間の使用を想定したカフ型カテーテルと一時的な使用を想定した非カフ型カテーテルの2種に分類される。
カフ型カテーテルは表在静脈も深部静脈も荒廃し自己血管内シャントも人工血管内シャントも作成困難である場合に選択されることが多い。適応が動脈表在化と似ているが、表在静脈が荒廃し返血路の確保ができないと考えられる場合、動脈表在化は適応とならないため、本方法が選択されることが多い。
このカテーテルはカフ部分が皮下組織と癒着することにより、感染と事故的な抜去の予防がなされているため、長期間の使用が可能である、自宅での管理が可能である。留置には手術が必要である。
一方、非カフ型カテーテルはカフが付いていない簡易的なカテーテルであり、5分程度の処置で簡単に留置することができる。緊急透析や他のバスキュラーアクセスが使用可能となるまでの間の一時的なバスキュラーアクセスとして使用され、原則入院が必要となる。右の頚部の静脈から留置することが多いが、必要に応じ左頚部や大腿部の血管から留置する場合もある。

2.バスキュラーアクセスの治療

①バスキュラーアクセス治療の方針

 治療に際しては、最も適切と考えられる方法で治療介入を行うことを原則とし、様々な状況に対応できる体制を整えています。

(1)造影剤アレルギー:炭酸ガスでの血管造影(figure 4)、(figure 5)やエコーガイド下PTA(figure 6)にて対応する

(2)中枢病変:透視下でVAIVTを行うが、症例によっては循環器内科のカテーテル専門医と合同で治療にあたる

(3)ペースメーカー留置症例などはペースメーカーの業者の立会いのもと手術を行うことを原則としており、不測の事態に対応できる体制を取っている

(4)手術室は常に稼働しており、当センター医師も24時間 on call体制で治療にあたっているため、必要に応じいつでも治療を行える体制を取っている

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②治療の流れ

 原則として維持透析施設からの診療情報提供書を持参していただきます。定期通院の症例も透析状況を確認する必要があるため、可能な限り診療情報提供書を持参していただきます。その診療情報提供書の記載内容および患者の診察の結果から、現在のバスキュラーアクセスの問題点を明確にし、その問題点を解決するための適切な治療法を検討します。

 以下に代表的なバスキュラーアクセストラブルとその対応例を示します

1)狭窄

【脱血不良、返血困難、穿刺困難、切迫閉塞】
緊急で治療介入 PTA(figure 7)が第一選択だが、場合によっては再建術を行う。それ以外の症状で、透析の継続が可能であると判断された場合、待機的治療血管造影や手術枠を確保し、その日時に合わせて再診。

●日帰り手術で対応

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2)閉塞

原則として、次回透析日までの間に治療を行い、トラブルを解消する

●中枢での再建術(日帰り手術)
●血栓除去術後(日帰り手術)
●VAIVT(日帰り手術)
●対側への再建術(入院加療)

3)感染

 バスキュラーアクセスの感染は極めて重篤な合併症となりえます。疑った場合、まずはご連絡ください

 人工血管の感染(figur 8)は原則的に緊急治療の適応です。

 各種検査を行ったのち、速やかに人工血管の抜去を行います。敗血症を発症し循環動態が不安定な症例に対してはまずは人工血管の閉鎖を行い、集中治療を行ったのち、2期的に人工血管の抜去を行うこともあります。

 自己血管内シャントの感染においても、感染部の自壊、38度以上の発熱、人工骨頭やペースメーカーなどの人工物が植え込まれている症例、シャント瘤の感染は緊急手術の適応です。

 上記症状以外の症例は保存的治療を先行し、難治性であれば感染部抜去やシャント閉鎖など外科的治療を行います。

 (原則入院加療)

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4)シャント静脈高血圧

 シャント静脈高血圧症(figure 9)はシャント流出静脈の狭窄や閉塞、流入血流量の相対的過剰により発症するシャント肢の静脈鬱滞による腫脹を特徴とする病態です。

 皮静脈の怒張のみの軽症症状から血流障害によるアクセス肢の皮膚潰瘍、壊死を認める重症症状まで様々な症状が出現します。

 アクセス肢の腫脹による穿刺困難、皮膚潰瘍や壊死を認める症例は緊急治療の適応となります。病変の部位および症状から緊急PTA、シャント閉鎖、血流制御術などが選択されます。

 上記症状以外の場合、まずはシャント造影もしくは3-D CT(figure 10)を施行するとともに、心機能を評価した後、待機的に治療を行います。

●VAIVT(日帰り手術)
●血流制御術(日帰り手術)
●シャント閉鎖(入院加療)

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5)シャント痛

 シャント肢に認められる痛みの原因は様々ですが、週3回の透析を継続していく上で、非常に大きな支障となります。当センターでは可能なかぎり痛みの原因を検索し、解消可能なものであるかを判断します。痛みの解消が困難と判断された場合、対側での再建を行うこともあります。  

6)穿刺トラブル

 穿刺はシャントを使用するためにどうしても必要なことですが、穿刺にまつわるトラブルで悩まれている方は実は非常に多いのです。穿刺の時の痛い、いつも同じところに穿刺されて瘤になってきた、穿刺に失敗することが多い、などです。
当センターでは、穿刺をより安全に施行していただけるよう、エコーやシャント血管造影、3D-CTなどを施行しシャントのマッピングを行います。検査したら、別の部位に穿刺できることがわかり、穿刺トラブルが解消されることはよくあります。