専門医療について

ドナー腎摘術

1. 腹腔鏡下ドナー腎摘術

1) 当センターのドナー腎摘術の特徴

 当センターではドナーの手術として2001年より内視鏡を用いた腎採取術を行なっております。わたくしたちが採用しているのは「用手補助的腹腔鏡下移植用腎採取術」といわれる方式で、術者が左手をおなかの中に差し入れ右手の手術器具の操作を補助します。この方法は提供者の方の安全性を第一に重視し、手術中の出血等の不測の事態に迅速に対処できることが特長です。

 

2) ドナー腎摘術の実績

 当センターでの腹腔鏡下ドナー腎摘術の手術実績は次の表のようになります。当センターの医師はこれまで1,800例以上の実績がありますが、開腹手術に移行した症例や、術後に輸血を必要とした症例は一例もなく、全ての症例において安全に施行出来ています。

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3) 腹腔鏡下手術の長所と短所

○術式の長所:開腹手術に比べてキズが小さいので痛みが少なく、入院期間が短くて済みます。 手術する部位が拡大して見えますので細かい操作が可能で出血量も開腹手術より少なくすることが可能です。 近年の手術時間は2時間前後で出血量は数cc で済んでおります。
○術式の短所:術式としての難易度が高いため、手術に習熟している必要がある。

2. 生体腎移植のドナーとなれる条件

1) どのような方がドナーになれるのか

 生体腎移植のドナーとなる条件は、簡単にいうと自らの自由意志で腎臓提供を申し出て下さる健康な成人の親族で、その多くはご両親か配偶者か兄弟姉妹です。
詳しい生体腎ドナーの条件は以下の通りです。

・年齢:下限は20歳です。上限ですが、おおよそ80歳未満であれば可能です。ただし個人差がありますので、予め健康状況を調べる必要があります。
・血液型が異なっても提供可能です。 もろちん夫婦間でも可能です。
・日本移植学会規定に従い、原則として親族 (6 親等以内の血族と配偶者および 3 親等以内の姻族と民法275条により定められています)に限定されます。たとえば両親は1親等、兄弟姉妹、祖父母は2親等、おじ、おばは3親等、いとこは4親等にあたります。
・活動性の感染症や悪性腫瘍のある方は提供できませんが、治療が済んでいれば問題ありません。
・血圧は 原則的に140/90 mmHg 未満。 降圧薬を内服されている場合は130/80mmHg 以下に管理されていることが必要です。
・肥満がないことが望ましいです。
・腎機能は、クレアチニンクリアランスで80 ml/min/1.73m2以上が理想です。
・タンパク尿はあってもごく少量
・糖尿病があっても糖尿病治療薬を内服してHbA1c が6.5%以下であること。
・腎臓の形や大きさに著しい異常がないこと。

 

2) 手術前に行う診察と検査

・血液検査:血液型、HLA型、レシピエントとのクロスマッチ検査、肝炎ウイルス等の検査
血算生化学検査(貧血の有無、腎機能、肝機能)
・尿検査:尿たんぱく、尿潜血、2時間クレアチニンクリアランス
・造影3D-CT :腎臓を含む内臓に異常がないかを調べます。腎臓のサイズや血管の数などを確認し、左右どちらの腎臓を提供するかを判断する参考にします。
・心電図、呼吸機能 胸腹部レントゲン検査
・麻酔科受診
・精神科受診

3. 腹腔鏡下ドナー腎摘術の実際

1) 手術の仕方

 手術による傷は(左の腎臓を摘出する場合は)3箇所です。腹部正中に縦方向に5〜6cmの切開を置き、術者が左手を入れたり、摘出の際に腎臓を取り出すのに使います。腎臓を傷つけずに体内から取り出すにはどうしてもその程度の切開が必要になるため、当センターでは予めその切開を正中部に取り、そこに手を入れて手術中の操作を安全確実に行うために使用しています。それ以外に内部で操作するための鉗子と呼ばれる器具を入れたり、内部句を見る為の小さなスコープを入れるために、左上腹部と左下腹部に1〜2cm程の小さな切開部を取ります。
次の図は術後7日目の腹部の状態です。

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2) 術後の経過

 手術後4〜5日で退院可能です。当センターでは火曜日に移植手術があることが多く、その場合は通常翌週の日曜日前後には退院となります。腎機能は術前のおおよそ6〜7割程度となりますが、通常の日常生活を送る分には問題ありません。スポーツ等も過激なものでなければ行えます。
ただ長期的にみていくと、腎機能が低下してしまう方が若干名おられました。こういった事態を避けるために、定期的に医療機関を受診し残腎機能のチェックをうけることが大事です。手術後1年目までは数回、1年目以降は半年から1年に1回、当センターの外来を受診していただいて問題がないかを調べます。遠方にお住まいの方は、お近くの適切な医療機関を紹介させていただきます。 そして、腎提供後も健康な生活を送れるようにサポートしてまいります。

 

3)腎摘出前後の腎機能の推移

 片方の腎臓を摘出すると、腎機能はいったん50%に低下しますが、その後、残った腎臓の予備力が現れてきて、遅くとも1〜2年で元の60〜70%にまで回復します。腎摘出前のCr(クレアチニン)値の平均値は0.7mg/dL前後で、腎摘出後のCr値の平均値は約1.0〜1.1mg/dL程度です。Crとは筋肉から出る老廃物で、その濃度が低いほど腎機能が良く、腎機能を測る最も標準的な検査データです。しかし、腎臓を提供する前からCrの値が高めの方もおられ、そうした方は腎摘出後もCrはやや高めで推移します。しかし、仮にCrの値が多少高めでも、一定の値を維持していれば、 健康や生活には支障はありません。

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