当院で可能な腹腔鏡手術
腹腔鏡下胆嚢胞開窓術
肝嚢胞開窓術
EITS消化器腹腔鏡手術エキスパートELKクリニカルアドバイザー、日本内視鏡外科学会技術認定医を中心に腹腔鏡手術を積極的に取り入れています。
腹腔鏡下肝嚢胞開窓術の実際
この患者さまは来院される数ヶ月前より、お腹の張りと痛みを自覚していたそうです。
超音波検査、CT検査で肝臓に巨大な液体のかたまりがあり(図1)、これが症状の原因と考えられました。巨大肝嚢胞の診断でまずは体の外から針を刺し中身を抜く治療をしたところ、溜まっている液体に肝臓で生成される胆汁という液体が混ざっていることが判りました。
これは肝臓と肝嚢胞との間に交通する管が存在していることを示しており、通常の肝嚢胞に対する手術、つまり肝嚢胞の殻を取り去る術式(開窓術といいます)だと肝臓から出る胆汁がお腹の中に漏れてしまい腹膜炎を起こしてしまいます。

図1 お腹のCT写真
肝臓の大部分をしめる大きな液体の袋
〜肝嚢胞〜があります(
これくらいの大きさになると、違和感、お腹の張り、痛みなどの症状が出ることがあります。

以前はこのような肝嚢胞に対しては、肝臓ごと切除する方法がとられていましたが、肝臓に向けて逆方向に造影剤をいれる方法で造影検査をすると、漏れ出している部分は1カ所であることが判明しました(図2)。
図2 胆管(肝臓で作られる胆汁という液体の通り道)を逆方向、つまり腸管側から肝臓側に造影剤を入れると(通常は肝臓から腸管へ向かって胆汁が流れています)、造影剤が嚢胞の中にモヤモヤと漏れ出しました()。つまり、嚢胞の中身には胆汁が含まれており、どこからか胆汁が漏れているはずです。このまま開窓術を行うと胆汁がお腹に漏れて腹膜炎になってしまいます。

そこで、従来の開窓術に加え、この漏れ出る部分を縫い縮めて漏れをシャットアウトする方法を行う事にしました。
さらに、今回この患者さまには腹腔鏡手術の中でもより低侵襲な臍部(おへそ)に縦に、約3cmの傷を1つ入れるだけで、施行し得る、単孔式腹腔鏡手術を選択しました。図の如く臍部の1つの傷から、3本の筒をお腹の中に挿入し、1本は、カメラを挿入残り2本の筒から、鉗子と呼ばれる、柄の長い鋏の様な器具を用い手術を施行します(図3)。
図3 単孔式腹腔鏡手術用のプラットホームです。水色のスポンジをお臍に装着して、そこに3本筒を差し込みます。
この筒から細長い器具を入れて手術を行います。
傷は3cm弱でお臍の中なので、時間が経つとほとんど目立ちません。

今回は縫う操作が必要なため、少し離れた場所に補助用に5mmの筒を追加しました。また袋は、切除と同時に止血機能を備えた、超音波凝固切開装置と呼ばれる器械にて切除し(図4)、摘出した検体は医療用ビニール袋に包み臍創部より摘出します。
そして、胆汁の漏れ出る部分を見つけこの部分を縫って塞ぎました(図5,6)。
さらに、人工糊をまいて縫い合わせた部分を補強しました(図7)
図4 超音波凝固切開装置で肝嚢胞の天井を切除していきます。ほとんど血を出さずに切除することができます。
図5 よく観察していくと胆汁が漏れ出てくる場所がはっきりと確認出来ました。
図6 漏れ出る場所をしっかりと縫って閉じていきます。
図7 しっかりと人工糊を塗って終了です。どこからも胆汁のもれはありません。

このような病気に対して従来行われていた手術(お腹を開けて肝臓を切除する)ではとても考えられないほどのスピードの回復力で退院されました(図8)
図8 術後の腹部写真です。スポンジを入れたお臍の傷はほとんどわかりません。
右側に追加で挿入した5mmの傷()がありますが、それ以外の傷はほとんどわかりません。

単孔式腹腔鏡下手術は術後のストレスも少なく早期退院が望め、臍部の切開創は、術後ほとんどわからなくなります。